家族信託・民事信託・親愛信託について
さまざまな呼び名がありますが、実はどれもだいたい同じことを指しています。
どれも信託法という法律に基づいて行う財産管理等のしくみのことです。
実は銀行などがする投資信託も同じ信託法に基づいて行う金銭の運用など財産管理のしくみです。
(銀行でよく書いてある「遺言信託」は、投資信託ともこのページでいう信託とも、まったく異なるものなのでご注意ください)
このページでいう信託は、銀行などが行う商事信託ではなく、家族や親族間でする信託ということになります。
いちばんよく使われている、「家族信託」とよび説明していきます。
信頼できる人に財産を託し、管理や運用をしてもらうしくみ
簡単に言うと
信頼できる人(家族や親族)と、自分のある財産(選択できる)の管理方法や承継の仕方を契約して、託す。
管理や運用、処分をしてもらって生じた利益や管理している金銭などで
自分の生活や身内の生活を支援してもらう方法ということになるでしょうか。
超高齢化社会であり、かつ、平均寿命と健康寿命との差が生じている日本において、
人生の晩年を、認知症などが重くなり判断能力が低下、または喪失して過ごす人が増えています。
判断能力を低下もしくは喪失してしまうと、自由に財産を運用したり処分することができなくなってしまいます。
支払うべきところへ払うことも、必要なものを揃えることも困難になってしまいます。
このような状況になった人をサポートするしくみとしては
これまでは成年後見制度を利用して対応していくか、亡くなられたあと相続してから対応するかだったのですが、
最近は信託契約で対応していくことが増えています。
家族信託を利用する例
具体例をあげます
【概要】
信託する財産:自宅の土地と建物および現金1千万円
信託の目的:お父さんが認知症などで判断能力が低下した後も、信託財産を管理運用処分して安心して生活が送れるように支援すること、
お父さんの死後は、信託財産を円滑に長女に承継させること
委託者(財産を託す人):お父さん
受益者(財産から利益を得る人):お父さん
受託者(財産を託され管理運用していく人):長女
お父さんと長女とで信託契約を結びます。
その内容は
①所有している土地建物と現金1千万円を、長女に託し、
②その財産を維持や運用をし、時には土地建物を貸したり、売却するなどして、得たお金や託された現金で
③お父さんの老後の療養費や生活費を支給していく。
④お父さんが亡くなった時にお母さんが存命の場合は、お母さんの生活を支援していく。
⑤両親がいなくなった場合には、この信託は終了し、信託した財産は長女に承継させる。
契約後、お父さん名義の土地建物は、登記申請をして長女の名義にします。
(登記名義は長女になりますが、あくまでも実質的な所有権はお父さんにあります)
現金は、信託専用の口座(倒産隔離機能のある特別な口座を作ることをお勧めします)にて管理します。
受託者である長女は、託されたお金や自宅を管理したり、処分したり、運用などをしていきます。
受益者であるお父さんの生活などで必要な時に、託された財産からお父さんの生活費や病院代、老人ホームの費用などを支払います。
お父さんの認知症が重くなり、自宅で生活できなくなり老人ホームに入所したあとも、受託者(長女)は信託財産である自宅を維持管理していきます。
信託財産のお金で、お父さんたちの生活費や療養費を支払っていきます。
お母さんも施設に入所し、自宅が空き家になった場合、受託者(長女)は、その自宅を賃貸に出すことも売却することもできます。
その代金を信託財産として信託専用の口座で管理していきます。
この契約③ではお父さんが亡くなった時には、受益者がお父さんからお母さんに変わり、継続してお母さんの生活・療養を支援していくことになっています。
(信託契約でお父さんが亡くなった時には信託を終了させるとすることもできます)
受託者である長女は、引き続き、お母さんの生活支援をしていきます。
お母さんが亡くなられた時、この信託契約は終了し、その時に残っている信託財産は長女に承継されます。
この承継は、「相続」の手続きではなく、信託による承継となりますので、他の相続人との遺産分割協議の対象には含まれません。
あるいは、遺言書による相続の対象にも含まれません。
信託することのメリット
信託により、両親をサポートしていくメリットは、自由度が大きいということです。
判断能力が低下してから利用する成年後見制度(法定後見)や判断能力が低下するまえに対策をしていく任意後見制度は
いずれも家庭裁判所が関与する仕組みです。
基本的には、財産を守る、維持するということが目的になりがちです。
また、法定後見の場合、身内が後見人になっても司法書士や弁護士が後見監督人に選任されるとランニングコスト(監督人の報酬など)が発生します。
任意後見の場合は、必ず任意後見監督人が選任されます。
信託の場合は、原則として家庭裁判所が関与しないため、
財産の管理方法の自由度が高く、積極的な運用も可能です(損害がでることもあり得ますが)。
また、原則として、家族や親族の間で信託契約をするので、継続的に専門家への報酬が発生するということを避けられます。
信託することのデメリット
まず、後見制度を利用し始める場合と比較して、信託契約をしシステムを作ることのほうが、最初の費用が高いのが一般的かと思います。
当事務所では、信託契約は完全にオーダーメイドです。どういう財産があり、なにをしたいのか、してほしいのか、将来どうのように承継させていくのか、
すべてのケースで同じ内容の信託契約を作るということは有り得ません。
契約書のひな型に穴埋めでシステムを作っていくことは非常に危険です。
そのような契約書で何年か後にトラブルになってしまう信託契約も多々あると聞きますし、
他人が作った契約書を見て、これ大丈夫かな??と思うこともあります。
ですから、当事務所では信託のシステムを作る際の報酬は後見制度利用の際の報酬よりも高額になります(ほとんどのケースで)。
ただし、長い目で見れば、後見制度利用よりもコスパが良かったといえるとは思いますが。
ほかのデメリットとしては
死亡時の様々な税金の特例が適用できないことがあるとうことです。
損益通算ができないケースや相続後の空家の譲渡税の特例が受けられないなどのです。
このあたりのことは、信託組成する際に、税理士さんのアドバイスを受けながら判断していくことをお勧めします。
家族信託のご相談は
家族信託を検討されている方とは、
なんどもお話を聞きながら、信託が向いているのか他の制度がいいのか、アドバイスをさせていただきます。
当職は、成年後見制度に関わって17年以上の実績がありますし、家族信託については、信託の研修を実施する二つの団体に所属し、
毎月(ほぼ毎週)勉強会に参加して研鑽を積んできています。
成年後見制度よりも、家族信託制度のほうが自由度も高いですが、トラブルも多くなると思うので、研修・勉強会への参加は欠かせません。
司法書士や弁護士の中の大半は、将来の認知症対策となると後見制度の利用の検討を勧める場合が多いと思います。
当事務所では、後見制度に関わってきた長い経験と家族信託との比較をし、相談に来られた方のケースバイケースでアドバイスできます。
正直なところ、信託をしたいのですとご相談に来られる方の、大半のケースは家族信託までしなくてもいいんじゃないですか?
とアドバイスすることが多いです。
しかし、中にはやはり信託が一番ベターですというケースがあり、
他の制度と比較アドバイスしたうえで、進めさせていただきますので、
余裕をもってご相談いただければと思います。
認知症が進んでしまって、、、、という状況は遅いかもしれないので。
早め早めにご連絡をいただきたくお願いします。